Haynes Commercial Flute #6189


Wm.S.ヘインズ社製(アメリカ)

コマーシャルモデル 総銀製

ドローントーンホール、オフセット・カバードキー、C足部管

 

手彫りで素晴らしいブランド刻印。

特徴的で美しい、足部管のメカニズム。


米国ヘインズ社の古いフルート。
シリアルナンバーによると、おそらく1921年に作られたこの楽器、この文章を書いている2021年現在でちょうど100年前。
その頃のヘインズ社には、チーフ・クラフトマンとして、誰もが知るあの製作者が素晴らしいフルートを世に送り出していた。
そう、V.Q.パウエル ご本人だ。
1913年(資料によっては1916年というものもある)、パウエルはヘインズ社に迎え入れられた。それまで独自でフルート製作を手がけてきた経験を発揮し、それまで木製フルートが主流だったヘインズ社で、総銀製フルートの製造がスタートしたそうだ。
この楽器もその時代のもので、パウエル自身が製造に関わったものであることは間違いない。

オリジナルのケースは損傷が激しく、新たにこの楽器にピッタリあうものを作っていただいた。

この楽器、本当に素晴らしいのだが、トーンホールの処理については気になるところ。

トーンホールが引き上げ(ドローン)のこの楽器。

引き上げのトーンホールの場合、カーリングといって引き上げたトーンホールの先をくるりと巻いて仕上げるのが

いまでは標準となっている。

このカーリングという方法自体、20世紀にヘインズ社で生み出された方法なのだが、どうやらこの楽器は、

そのカーリング処理がされていないらしい。

 

↑左の図はこの楽器の管体とトーンホールの断面。右図がカーリングが施された管体とトーンホールの断面。

 

それによってどんな弊害があるかというと・・・・

カーリングをされていないトーンホールは、いわば刃物のようなもの。

このトーンホールに押し当てられたタンポはあっという間に切れて、そこから破れてしまう。

 

つまり、タンポが傷むのが早いのが、このトーンホールの弱点。

 

ただ、この弱点を克服するべく、カーリングという方法がこのヘインズ社から生み出された事を考えると、

逆にこの弱点こそが、フルート進化の証ですね。